必要経費

海外で腎臓移植を受けようと中国へ渡った日本人が、
手術を受けられずお金を騙しとられたとして訴えている
と言うニュースを読んで思った事…

中国での腎臓移植に1000万円用意し、向こうで2ヶ月透析治療を受けながら
ドナーを待ったが現れず、追加料金を請求され憤慨して帰国したと言うモノ。
既に支払った1000万の内、斡旋したNPO団体より600万の返金を言われたが、
「(額が少な過ぎて)話にならない。」と断ったと書いてある。
経費の領収書も保管されており、詐欺にはならないと団体は主張しているようだ。

ニュースの原文をそのまま信じれば「400万の経費は妥当なのでは？」と思う。
推察も混じりますが、健康保険の様なモノを持たずに2ヶ月間入院して、
透析治療を受ければその位になってもおかしくないと考えてしまうのです。

日本で腎不全と診断されると、急性期は大学病院などの総合病院でフォローされ、
安定期に入ると職場や自宅の近くにある外来専門病院で週2〜3回通う治療になる。
成分輸血の様な機械につながれて、1回3〜5時間程血液浄化を行う治療を受けます。
腎臓は一度壊れたら元に戻らない為、移植をしない限り死ぬまで治療に通うのです。
体調が悪くても、葬式があろうとも、命をつなぐ為に休む事が許されない厳しい治療。

治療の時間以外は、普通の生活を送れます。
企業側も障害者を雇う事で利点があるので、窓際族になる事はあるのかもしれませんが、
殆どの方が発病前の会社で働いていらっしゃたようです。
夜間透析を殆どの病院がしているので、会社員として収入は得られるのです。

それでも、食事と飲水制限のつらさ。

治療は数々の苦痛に耐えなければいけません。

健康でありたいと願うのは、人として当然の事です。
腎機能の取り戻す為には移植しか手段が無い訳です。

ところが移植は家族間のドナーがいない限り、登録しても絶望的です。
10年程、透析看護師をしていましたが、離脱出来たのは家族提供者のみでした。
なので、比較的安い中国での移植を希望したお気持ちは十分理解出来ます。

ただ、金額だけ見るのであれば、必要経費を差し引いた600万円返金を断る理由。
そこががわからない。契約はどうなっていたんだろう？
移植出来ない可能性は盛り込まれていなかったのでしょうか？

海外の貧困層は治療が受けられず悲しい事態になる位、透析治療はとても高額。
日本での透析患者は障害者認定を受け、入院・治療・検査・投薬費は無料と保証されます。
治療は高額所得者でない限り、健康保険を使っても払うのが難しい額です。

一方で腎臓病に必要な内服薬だけではなく、風邪薬・目薬・貼り薬・水虫薬・毛生え薬
ハンドクリーム代わりの軟膏まで全て無料。中には家族の人の分まで持ち帰ったり、
友達に売っている方がいます。バイアグラを持ち帰る方もいて、何か違うなぁ〜と…
不安感が強い方は、検査も頻繁に受けていました。高額な検査を短期間に何度も…
”タダ”より恐ろしいモノは無い。必要を感じない矛盾は日常茶飯事でした。
目が見えにくくて眼科に行って投薬名だけ聞いて来て、当たり前に透析日に出してもらう。
通院の交通費を出している自治体もあります。一時期は治療中に食べる食事も無料でした。
毎日、薬のお土産付きで帰る方は大変多かったです。

治療・検査料含め、これらの費用は国が支払います。
全国で30万人近い透析患者数。莫大な費用です。

皆様が払っている、健康保険から捻出しています。

薬代だけでも自費(3割負担)にして、その分を他の難病支援に使ったら、
どんなに幸せだろうか？といつも思っていました。

訴えている方が必要最低限の治療しか受けていなかったとしても、
やはり高額である事にかわりありません。
海外出張が多いサラリーマンにお話を伺った事がありますが、
日本と余り変わらない治療費を請求されていました。

入院費も、日本を例にとれば大部屋でも差額ベッド代と言うのが発生し、
2ヶ月いればそれなりの金額になります。
緊急入院で個室や、特別室しか空いてなければ、そこに入らざる得ませんが、
そうなると1日○万円と高級ホテル並みのベッド代を請求されるのです。
中国のベッド代がどの程度はわかりませんが、それなりの設備を整えた病院であれば、
日本と大差なくかかると思います。

ドナーが現れなかったのはとても残念な事ですが、
コレばっかりは運がなかったと言うか、しょうがない事に見えます。

言った言わないの展開になりそうな事件。

400万円の必要経費。

高いかととるか、妥当ととるか…私は後者です。

透析患者さんは治療費に対する金銭感覚がズレている方が多い様に感じます。

あくまで個人の感想であり、もっと深い所にトラブルの種がありそうですが…